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「不確実性の高い電力事業の業務を支援するデジタルソリューション」#1 電力市場の変化

Blog Post | 11.11.2025 | 4 min read

エネルギー市場参加者は、市場の動向や価格を正確に把握し、その情報を基に迅速かつ効果的な意思決定を行うことが求められています。しかし、企業がどのようにして自社の発電設備のライフサイクルコストを最適化し、フィールドワークの生産性と作業者の安全性を両立させるかが課題となっています。また、電力事業を取り巻く環境は日々変化しており、不確実性の高い電力事業には柔軟な事業戦略とリスク管理が必要です。

今回からシリーズで「不確実性の高い電力事業を支援するデジタルソリューション」と題して「#1 電力市場の変化」、「#2 エナジーポートフォリオマネジメント(EPM)」、「#3 エネルギートレーディング&リスクマネジメント(ETRM)」、「#4 ノストラダムスAI」、「#5 PROMOD」の5回に分けて紹介します。

電力市場の変化

この記事でご紹介するソリューションの背景にあるのは、「電力市場の変化」です。

2011年の東日本大震災以降、日本政府は再生可能エネルギーの普及に力を入れてきました。その結果、日本の年間発電量における再生可能エネルギーの割合は2010年の9.9%から2024年には約24%にまで増加しました。しかし、太陽光発電が昼間に集中して発電するため、特に4月や5月のような電力需要が低い時期には、出力抑制が生じることが増えており、発電事業者にとっては収益減の原因となっています。

再生可能エネルギーの売買については、以前は固定価格買取制度(FIT)が主流でしたが、再生可能エネルギーを主要な電源とするためには、市場統合の促進や国民負担となっている再エネ賦課金の削減が望まれています。2022年からはフィードインプレミアム(FIP)制度が導入され、再生可能エネルギーにもより経済的な自立が求められるようになりました。太陽光や風力などの再生可能エネルギーは立地によって発電量に差が出るため、開発が進むにつれて適地が減少する問題がありますが、洋上風力の発展やペロブスカイト太陽電池の登場により、さらなる拡大の可能性が生まれています。

制度や市場の変化も重要です。集中型の大型火力発電から分散型の再生可能エネルギーへの移行は、電力系統の計画や運用にも影響を与えています。再生可能エネルギーを早期に系統に接続するためにノンファーム型接続が導入されましたが、これにより従来の需給バランスによる出力抑制に加え、混雑による抑制も発生する可能性があります。

電力の価値を取引する市場も急速に変化しています。例えば、昨年には脱炭素電源への投資を促進するために長期脱炭素電源オークションが始まり、供給量と調整力を同時に取引する市場の構想も進んでいます。2022年には東京証券取引所で電力先物取引が本格的に開始され、価格変動のヘッジ手段も多様化しています。

化石燃料から再生可能エネルギーへの移行過程では、火力と再生可能エネルギーそれぞれのリスクによって事業環境が不安定になる可能性があります。天候に依存する再生可能エネルギーは異常気象時に発電量が減少するリスクがあります。例えば、スペインでは1ヵ月間の風力の発電量が前年比で2割減少した都市があり、LNGの在庫の逼迫もあいまって、電力価格が過去最高値を更新しました。一方で、火力発電にも自然災害や世界情勢により、燃料の供給が大幅に減少したり、途絶えたりするリスクがあります。日本でも2011年の1月に需給逼迫とスポット市場の高騰もありましたが。これは寒波による需要の増加に加え、パンデミックによる人手不足で米国からのLNG輸入が滞ったことが一因です。

このように各電源には特有のリスクがあり、電源構成が推移する中では、どのリスクが発現するのかの予測が困難となっています。さらに現在実証段階にあるものとして、CCS、二酸化炭素の回収と貯留や水素、アンモニアなどCO₂を排出しない燃料があり、また急速に普及している技術として、蓄電池の参入など非常に大きな変化をもたらす可能性の高い技術の普及も進んでいるのが現在の市場を取り巻く状況です。

さて、今回は不確実性への対応というテーマを掲げています。日本語で不確実性と一言で表しているこの概念について、その原因となっているものや不確実性をもたらしているものも含めて、英語では四つの特性に分類しており、スライドの左側に記載しています。

一つ目が変動制、英語で言うVolatilityです。エネルギーの世界で言うと、燃料や電力の価格が激しく変動することを指します。二つ目は、ずばり不確実性、英語のUncertaintyです。電力市場が自由化されたことに伴い、政策の転換や制度の変更も踏まえて、10年後、20年度を見据えた最適な投資判断を下すことが困難になっています。例としては、北海道エリアの風力発電設備の出力変動対策の制定や緩和、洋上風力の第一ラウンドのFIP転換などがあります。三つ目は複雑性、Complexityです。国内には現在、日本卸電力取引所、JPEXに加え、2020年に容量市場が始まり、2021年には需給調整市場が運開、2022年には電力先物が本上場されました。さらに容量市場の一部として長期脱炭素電源のオークションが設けられたり、非化石価値が別途取引されたりと多くの市場があり、事業者にとってはどの市場でどの程度の収益を狙うべきか、戦略の策定が難しくなっています。四つ目は曖昧性、Ambiguityです。国内市場の情報公開は、発電所情報公開システムを通じた発電機の停止情報や各送配電事業者の系統情報など公表が進んでいますが発電機の詳細なスペックやリアルタイムの発電量に関する情報はまだ限られています。発電事業者の競争力にも関わるため、すべて公開することが必ずしも良いとは限りませんが、公開されれば、事業者が長期的な投資を考える上での有効な材料になることは間違いありません。以上の4つの特性をそれぞれの頭文字をとってVUCAと呼んでおり、電力エネルギーに携わる事業者は絶えず最新の情報を入手すること、変化に柔軟に対応すること、許容できるリスクの幅を見定めつつ、時に大胆な意思決定をすることが求められます。次回は、実際に不確実性の高い電力事業を支援するデジタルソリューションとして「#2 エナジーポートフォリオマネジメント(EPM)」をご紹介します。

 

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※日本語でお問い合わせいただけます。


木明 緑
シニアソリューションコンサルタント

日立エナジージャパンのシニアソリューションコンサルタント。
2019年から一貫して電力の需給シミュレーションを担当。2020年からは約2年半、電力広域的運営推進機関に出向し、広域連系系統のマスタープラン策定に携わる。帰任後は日本の電力需要、発電設備、送電網のデータベース構築や、マーケットレポートの開発に従事。
電力事業者にとって、客観的かつ定量的な検討に基づいて投資判断ができる環境の実現をめざしている。