デジタル時代のエネルギー転換:レジリエンスを高める電力網の新しい姿
Blog Post | 05.03.2026 | 9 min read | Andy Howell
Blog Post | 05.03.2026 | 9 min read | Andy Howell
2025年11月25日、米国フロリダ州タンパベイで開催された日立エナジーの顧客向けイベント「Digital Days」で、米国の電力会社に所属する系統運用マネージャーが、次のように語りました。
「電線や鉄塔、配管といった設備が重要であることは言うまでもありません。しかし、今、最も重要な役割を担っているのはデータです。」
彼は、現場やアセットからデータを可視化することの重要性を強調しました。しかし、それ以上に重要なのは、そのデータを基に、いかに迅速かつ的確に意思決定を行い、行動へと結びつけられるかだと指摘しています。
国際エネルギー機関(IEA)によると、再生可能エネルギーおよび電化分野には、世界で約2.2兆ドルもの投資が行われています。
この急速な投資拡大は、電力分野においてかつてない未曽有のデータ増大もたらしています。電力事業者が競争力を維持するためには、これらのデータを可視化・統合し、迅速かつ的確な意思決定に結び付けることが重要です。
電化が急速に進む現代において、データはもはや「あると便利なもの」ではなく、「不可欠な資産」となっています。データは電力供給の信頼性を支え、リアルタイムの意思決定を可能にし、最終的には電力網のレジリエンス(強靭性)を高める基盤を担います。
電化の進展、AIの活用拡大、さらにはデジタル経済の加速を背景に、エネルギー転換の成否は、デジタルインテリジェンスをいかに迅速かつ効果的に活用できるかに大きく左右されます。
こうした変化の中で、日立エナジーのEnterprise Software Solutionsにおいては、デジタル化が不可欠であることが明らかになっています。電力網がよりダイナミックになり、再生可能エネルギーの導入比率が高まる中、電力事業者には、より迅速な対応、より高度でスマートな運用、そして精度の高い計画立案が求められています。こうしたニーズに応えるうえで、エンタープライズソフトウエアは、エネルギーエコシステム全体を横断的につなぎ、全体最適を実現する役割を担います。
ここで重要な役割を果たすのが、エネルギーソフトウェアです。エネルギーソフトウェアとは、計画、運用、アセット管理、リアルタイム系統制御、さらには電力市場への参加に至るまで、エネルギーバリューチェーン全体にわたるデータを収集・分析し、意思決定や行動につなげるためのデジタルプラットフォームおよびアプリケーションを指します。これにより、系統や設備から得られる膨大なデータは、信頼性・効率性・レジリエンスの向上に寄与する実行可能なインサイトへと転換されます。
日立エナジーのEnterprise Software Solutionsは、この変革の中心的な役割を担っています。個別最適のツールではなく、計画から運用・保守・収益化までを一貫してつなぐ統合システムにより、部門や業務の壁を越えたデータ活用を実現し、電力網からエネルギーのライフサイクル全体に広がるデータをつなぐことで、その価値を最大限に引き出します。
日立エナジーのデジタル・エネルギー・ポートフォリオは、Grid & Generation Management、Asset & Work Management、 Energy Portfolio Managementの三つの主要なソフトウエア領域を中核として構成されています。これらのエンドツーエンド型ソリューションは、電力事業者をはじめとするアセット集約型組織に対し、計画・構築・運用・保守・収益化に至るまでのプロセスを一貫して支援します。分断された個別プロセスとしてではなく、エネルギーライフサイクル全体を連続した流れとして最適化できる点が特徴です。
・ Grid & Generation Management は、電力網そのものの運用とリアルタイム管理を支える中核ソリューションです。電力系統の安定運用を支える中核的なアプリケーション Network Managerを通じて、刻々と変化する系統状況に対応し、発電・送電・配電から電力市場に至るまで、電力システム全体を横断した制御を可能にします。実際にARC Advisory Groupは、日立エナジーを系統制御・管理、停電管理、AIアプリケーション分野におけるマーケットシェアリーダーとして評価しています(Grid Automation Global Market Study 2024–2029、2025年6月)。
・ Asset & Work Management は、電力網を支える人と設備に焦点を当てたソリューションです。アセットの所在や状態、保全のタイミング、最適な作業クルーの配置などを可視化し、アセット管理と現場業務の高度化を実現します。IDCは、日立エナジーを「IDC MarketScape:Worldwide Utilities Asset Performance Management(APM)2025–2026」におけるリーダーとして選定し、APM(資産パフォーマンス管理)、EAM(設備資産管理)、FSM(フィールドサービス管理)を統合したデータ主導のアセットライフサイクル管理を提供できる点を高く評価しています。
・ Energy Portfolio Management は、エネルギーの商業的価値を最大化する役割を担います。電力価格やエネルギープロジェクトのモデリング、電力取引を通じて、エネルギー商品やアセット全体の経済価値を最大化します。
このエネルギーソフトウエア・ポートフォリオの強みは、その一貫性と統合性にあります。個別のソリューションを導入するだけでも一定の効果は得られますが、それらが連携することで初めて、より大きな価値が創出されます。計画が運用に反映され、アセットの健全性が需給判断や将来投資に影響を与え、さらに商業的な意思決定がリアルタイムの系統状況やエネルギー価格と連動する、こうした相互連携によって、エネルギー運用は新たな段階へと進化します。
こうした分断のない一貫したシステム設計は、偶然生まれたものではありません。計画、運用、取引、エンジニアリング、現場業務といった従来の縦割り構造では、もはや対応しきれないという業界の現実に応える形で設計されています。市場環境の変化、規制要件の高度化、そしてビジネススピードの加速。これらすべてが、より深い統合と迅速な意思決定を求めています。いまやエネルギー業界において、時間のかかるフィードバックループを許容する余地はありません。エネルギーライフサイクル全体を、エネルギー転換のスピードに合わせて動かしていくことが求められているのです。
日立エナジーは、どれほど経験豊富な組織であっても、単独でグローバルなエネルギーシステムを変革することはできないと認考えています。そのため、当社のデジタル戦略の中核には“コラボレーション”が据えられています。
1. 日本における次期中央給電指令所システム
日本では、全国の電力事業者と送電事業者をデジタルで統合し、これまでエリアごとに個別に運用されてきた需給調整、周波数制御、市場運用を地域横断で最適化する取り組みが進められています。日立エナジーは、この取り組みにおいて世界最大級となるエネルギー管理システム(EMS)の構築を担っており、極めて複雑な電力ネットワーク全体をエンドツーエンドで可視化し、最適化することを可能にします。
2. 再生可能エネルギー発電事業者向けクラウド型グリッド制御
別の事例として、米国の独立系発電事業者であるConduit Powerは、従来の物理的な制御室を不要とする完全クラウドベースの制御システムを導入しました。テキサス州で激しい嵐が発生した際にも、オペレーターは自宅から遠隔操作でシステムを操作し、再生可能エネルギーの発電を維持しました。この事例は本質的な変革を示しています。すなわち、電力系統はもはや地理的な制約や物理インフラ、従来の運用モデルに縛られない存在へと変わりつつあります。
3. 米国地域送電運用者におけるAI活用の連系計画高度化
Southwest Power Pool(SPP)は、日立と提携し、発電設備の連系検討を最大80%高速化するAIベースのソリューションを導入しています。AIベースのソリューションを導入しています。これにより再生可能エネルギーを含む増加する電源の統合に向けて、より迅速かつ確実な意思決定が可能になります。データセンターや製造業、電化の進展によって電力需要が高まる中で、本ソリューションは容量不足への対応、系統の信頼性の向上、さらには緊急時における対応力の強化にも寄与します。
これらの事例は、お客さまとの協創を通じてエネルギーイノベーションの未来が形作られていることを示す、より大きな潮流の一端です。実際の現場への導入は、新たなアイデアを、信頼性と拡張性を兼ね備えた実用的なソリューションへと発展させる実証の場となっています。
日立エナジーはこれまで、HVDC、変圧器、開閉装置など、電力システムを支える主要機器の分野で、グローバルリーダーとしてハードウエアを提供してきました。これらは電力インフラの根幹を担う不可欠な存在です。しかし、どれほど高性能なハードウエアであっても、それだけでは現代の電力網の複雑さには十分に対応できません。現在、電力設備は急速にインテリジェント化が進み、自己監視や自動化といった機能を備えるようになっています。
将来の電力システムでは、変圧器が自ら状態を監視し、設備の異常や故障の兆候をリアルタイムで通知するようになります。さらに、電力網全体も、より少ない人手で効率的に運用できるようになります。このような世界を実現するためには、ハードウエア同士だけでなく、データも含めてシステム全体がシームレスにつながっていることが不可欠です。そして、その中核を担うのがソフトウエアです。膨大なデータを解析し、的確な意思決定を導き、自動化を実装することで、設備の性能を最大限に引き出す役割を果たします。まさに、ソフトウエアは電力網を知能化する“中枢神経”と言えます。
この流れは、過去40年にわたって進化を続けてきました。初期のERPシステムによるデータ活用に始まり、制御システム、アセットデータベース、さらにはトレーディングプラットフォームへと発展してきました。そして今、AIや機械学習の飛躍的な進歩により、その基盤はさらに高度化しています。これまで専門家チームが担っていた分析は、アルゴリズムによって高速かつ高精度に実行されるようになりました。数週間、あるいは数か月を要していた処理が、今ではわずか数秒で完了します。その結果、エネルギー分野で蓄積されてきた知見をリアルタイムで活用し、すぐに実行に移すことが可能になっています。
現代の電力系統は、かつてない課題に直面しています。電力需要は増加し、再生可能エネルギーの変動性は高まり、脱炭素化の目標は一層厳しくなっています。その一方で、蓄電池システム(BESS)や再エネ設備といった新たなインフラを導入するための計画プロセスは、依然として非常に時間がかかるのが現状です。
場合によっては、計画や許認可に数年を要することもあり、もはやそのスピードには耐えられません。このサイクルを加速させるためには、電力事業者が数十万件のシナリオを迅速に検討し、チーム間でデータを円滑に共有し、複数年単位のプロセスを数カ月程度に短縮する必要があります。そのためには、組織内のサイロを打破し、計画と運用を密接に連携できるデジタルツールの導入が不可欠です。
さらに重要なのは、データの信頼性です。これらのデータは、正確さが求められているだけでなく、必要な人がアクセスできるものでなければなりません。これにより、迅速なリスク分析や代替構成の検討、高い確度での意思決定が可能となり、クリーンエネルギー転換を加速できます。
この文脈において、デジタル化は単なる効率化ではなく、電化目標を達成するための重要なドライバーとなります。
これまでご紹介してきた顧客導入事例に加え、日立エナジーはグローバルの先進テクノロジー企業とも連携しながら、新たな価値創出に取り組んでいます。AWS、Google、Microsoft、NVIDIAといったイノベーターとの協働により、AI、クラウド、予測技術、先進分析の領域で技術革新のスピードが高まっています。これらのパートナーシップは、単なる技術連携にとどまりません。機能の拡張や状況認識の高度化に加え、付加価値の低い業務の効率化を実現し、データに基づく意思決定の質を高めます。その結果として、業務のスピードと精度の両立が可能になり、これまでにない新たな価値が生まれています。
こうした取り組みを通じて、お客さまとパートナーが一体となったエコシステムが着実に広がっています。これは、デジタルイノベーションを生み出す企業同士がつながるネットワークであり、次の時代へと私たちを導く基盤でもあります。めざすのは、変化に柔軟に対応できる「未来志向のエネルギー運用」です。ここで強調したいポイントは非常にシンプルです。電化の時代において、競争力の鍵を握るのは「つながり」です。電化の進展は、経済、産業、そして社会のあり方そのものを変えつつあります。その中で持続的に成長する組織とは、データ・システム・人、それぞれの「つながり」を最大限に活用できる組織です。分断された情報や孤立したシステムではなく、相互に連携し価値を生み出す仕組みこそが重要になります。
日立エナジーは、この変革の最前線に立ち、お客様とともに新しいエネルギーの未来を切り拓いていきます。
日立エナジーのEnterprise Software Solutionsに関するお問い合わせは、こちらよりお気軽にご連絡ください。
※日本語でのお問い合わせにも対応しています。
Energy software refers to the digital applications and platforms that collect, analyze, and act on data across the energy value chain—from grid operations and asset management to market participation. It is essential because it helps utilities improve reliability, make faster decisions, enhance efficiency, and build a more resilient grid.
Digitalization enables energy organizations to ingest high‑volume data, automate complex tasks, model scenarios, and operate the grid with greater accuracy and speed. By connecting planning, operations, and market activities, digital tools accelerate renewable integration, support electrification, and help utilities meet decarbonization goals.
Hitachi Energy’s enterprise energy software is designed as an integrated, end‑to‑end system that unifies grid management, asset and work management, and energy portfolio management. This connected architecture breaks down operational silos, improves data visibility, and ensures utilities can plan, operate, maintain, and optimize their systems as one continuous digital lifecycle.