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蓄電池システム(BESS)を戦略資産に変える電力変換システムの役割とは:エネルギー転換の成否を分ける系統制御の進化

Blog Post | 16.06.2026 | 7 min read | Alberto Prieto

電力系統はすでに大きく変化しています。今こそ、その“制御の中核”に改めて目を向ける必要があります。

 

私はスペインのコルドバにある、父が経営していた変圧器工場でキャリアをスタートしました。現在も兄が同じ場所で働いています。数年前、日立エナジーの蓄電池システム事業を率いる立場になったとき、技術そのものはこれまでと地続きで理解できるものでしたが、その意味合いが大きく変化していることに気づきました。変圧器は、電力システムを支える基盤インフラです。高い信頼性を備え、一度設置されれば、長年にわたり大きな手入れを必要とせず、同じ役割を安定して果たし続けます。まさに“変わらない前提”の中で機能してきた存在です。

しかし、いま注目すべきは電力変換システムです。これは従来の設備とは本質的に異なる存在です。その役割はいまも進化の途上にありながら、これからのエネルギーシステムを支える大きな可能性を秘めています。系統の構造が変わる中で、「何が電力を制御しているのか」という問いの答えもまた、いま大きく変わろうとしています。

前提が覆りつつある電力システム

これまで約1世紀にわたり、電力システムは中央集約型で、一方向に電力が流れるモデルを前提に設計・運用されてきました。石炭・ガス・原子力といった大規模な同期発電機が交流(AC)電力を生み出し、その電力は変圧器と送電ネットワークを経て、家庭や産業へと供給されてきました。そして需要側も同じくAC電力を利用してきました。
この仕組みを支えていた重要な要素が、「慣性」です。巨大な回転機の質量が周波数変動を抑制し、系統運用者に対応のための時間と運用上の余裕をもたらしていました。さらに、これらの同期特性は、電圧の安定維持や無効電力の供給にも大きく貢献してきました。

しかし現在、この前提は大きく変わりつつあります。分散型再生可能エネルギーの導入拡大や、社会全体の電化は、単にシステムの複雑性を増しただけではなく、電力システムの根本構造そのものを変え始めています。太陽光発電は本質的に直流(DC)であり、蓄電池も直流で動作します。
さらに、急増するデータセンターやEV充電インフラ、高度な産業設備も、内部では直流を前提とするケースが増えています。その結果、電力システムは今、ACとDCの間を絶えず変換し続ける構造へと移行しています。しかもその規模と地理的広がりは、従来の系統設計では想定されていなかったレベルに達しています。

この変換を担っているのが電力変換システムです。しかし、これを単なる「電力の変換装置」として捉えるだけでは、本質的な変化を見落とすことになります。電力変換システムは、ソフトウェアによって制御される「能動的なシステム」です。単に電力を変換するだけではなく、系統とリアルタイムに相互作用しながら、周波数制御、電圧調整、無効電力制御、ミリ秒単位での擾乱対応まで担っています。
同期発電機の減少により系統慣性が低下する中で、電力変換システムは、かつて大型回転機が担っていた役割である、系統安定性を支える中核機能を担う存在へと進化しています。

この変化のインパクトは極めて大きく、無視できない規模に達しています。国際エネルギー機関(IEA)は、2030年までに蓄電池容量が6倍に拡大すると予測しています。こうした設備のすべてにおいて、電力変換システムは系統との接点として機能し、系統の変化に応答しながら、投資家・運用者・規制当局が求める性能を実現します。つまり、電力変換システムは単にエネルギー転換を支援する技術ではありません。現実には、エネルギー転換を“支える存在”にとどまらず、その実現そのものを担う中核的な存在なのです。

電力変換システムから「戦略的資産」へ

いま、電力変換システムの捉え方が大きく変わろうとしています。単なる設備や機器としてではなく、価値を生み出す「戦略的資産」としての位置づけです。この視点に立つと、評価の基準も変わります。
これまでは定常時の性能が重視されてきましたが、それはもはや前提条件に過ぎません。真に問われるべきは、系統にストレスがかかった瞬間に、その電力変換システムがどう振る舞うかです。
例えば、設備の故障や周波数の急変、あるいは発電機の急激な脱落など、こうした事象に対して、電力変換システムがどれだけ迅速かつ安定的に応答できるか。慣性が低下した現代の電力系統では、これらの事態はより速く、かつ予測の余地が少ない形で発生します。厳しい条件下で、どのように設計し、制御し、検証されているか。そこにこそ、エンジニアリングの本質的な価値が表れます。

さらに近年、急速に重要性を増しているのがセキュリティの視点です。電力変換システムは、重要インフラの中に組み込まれたデジタル機器であり、その挙動を左右するソフトウェアは、もはやハードウェアと同等か、それ以上に重要な意味を持ちます。
系統がより電力変換システムに依存し、データセンターのような大規模需要も増加する中で、機器の出自や設計品質、そしてサイバーセキュリティへの対応は、単なる技術課題の枠を超え、より広いリスク管理のテーマへと広がっています。こうした動きは各国の規制にも反映され始め、セキュリティは今や経営レベルで議論されるべき重要項目となっています。

そして、もう一つ重要なのが「時間」という視点です。蓄電池システムは短期的な資産ではなく、20年以上の長期にわたって運用されることを前提としています。その間には、系統ルールや市場制度の変化、さらには新技術の登場など、さまざまな変化が不可避です。導入時点ですべてを見通すことはできません。
だからこそ問われるのは、長期にわたりこの資産を支え続けられるかどうかです。十分なエンジニアリング力、継続的なサービス提供体制、そして確かな財務基盤。こうした要素を備え、資産のライフサイクル全体にわたって性能を維持できるパートナーの存在が重要になります。いま先進的なアセットオーナーや投資家は、こうした視点を「導入後の課題」ではなく、「調達の初期段階」から重視するようになっています。電力変換システムはもはや単なる設備ではなく、長期的な価値創出を左右する戦略的資産へと進化しているのです。

長期的コミットメントは、現場でどのように実現されるのか

長期的な価値やコミットメントといった考え方は、実際の運用現場においてこそ、その真価が問われます。その具体例の一つが、オーストラリア・クイーンズランド州Ulinda Parkプロジェクトです。
本プロジェクトでは、Akaysha Energyが開発・運営する155 MW/298 MWhのUlinda Park BESSに対し、日立エナジーは電力変換装置(PCS)および制御技術を含む技術ソリューションを提供しました。これは、52台の電力変換装置が連携して稼働する大規模システムであり、世界でも特に要求水準の高いオーストラリア市場で運用されています。
この市場では、周波数制御補助サービス(FCAS)への対応が求められ、変動が激しく、運用要件の厳しい市場環境においても、安定かつ予測可能な性能を維持することが不可欠です。つまり、単に設備を導入するだけでなく、“厳しい条件下でいかに機能し続けるか”が価値の基準となります。

では、Ulinda Parkはどのような点で注目されているのでしょうか。その理由は、設備の規模ではなく、その背景にある「コミットメントのあり方」にあります。本プロジェクトでは、機器の提供にとどまらず、日立エナジーとAkaysha Energyの間で20年間の長期サービス契約(LTSA)が締結されています。この契約には、継続的なモニタリング、予防・是正保全、24時間365日のリモートおよび現地サポートが含まれており、資産のライフサイクル全体にわたる可用性と性能を継続的に支える仕組みが構築されています。

さらに、これらの取り組みは、日立エナジーのエネルギーインフラ向け次世代AIサービス・ソリューション群「HMAX Energy」を通じて提供されています。アセットデータとデジタルサービス、そして専門知見を組み合わせることで、運用は「事後対応」から「計画・予測・予防」を軸に最適化され、資産の長期的な価値を支えます。
ここで重要なのは、その価値が、引き渡し時点の状態を保証することだけにとどまらず、長期にわたってどのような成果を生み出し続けるかに焦点を当てたパートナーシップであることです。
すなわちOEMは、設備の納入で責任を終えるのではなく、その後の市場環境や運用条件の中で、システムがどのように機能し続けるかに対して継続的に関与し、責任を担います。こうしたアプローチは、これからのエネルギーインフラにおける新しい価値基準といえるでしょう。単なる「導入」ではなく、「長期的な価値創出」を見据えた投資へと転換がすでに始まっています。

次の25年を見据えて

電力変換システムを支える技術は、いまも着実に進化を続けています。パワーエレクトロニクスは効率や熱性能の面で着実な改善を遂げており、その進展は設備の設置面積の最適化や運用コストの低減、さらには系統の末端領域(現場側)への展開にも直接的な影響を及ぼしています。
また、AIを活用した制御アルゴリズムも、研究開発の段階から実運用へと移行しつつあります。これにより、従来型の制御手法だけでは対応が難しかったスピードと複雑性を持つ系統に対しても、より柔軟かつ高度な制御が可能になりつつあります。電力変換システムが主役となるこれからの系統において、その価値はさらに高まっていくでしょう。
さらにデジタル化の進展は、アセットマネジメントのあり方にも変化をもたらしています。保守は従来の時間基準から状態基準へと移行し、資産の状態を継続的に可視化しながら最適な運用判断を行うことが可能になってきました。こうした仕組みは、Ulinda Parkのような20年間の長期サービス契約において、長期にわたる性能維持を支える基盤となっています。

しかし、より重要なのはこうした個々の技術進化にとどまらない、構造的な視点です。いまや仕様策定や導入が進められている電力変換システムは、太陽光発電所や蓄電池システム、さらには系統インフラの中核として、2040年代半ばに至るまで稼働し続けることになります。

そしてその頃の系統は、現在よりもはるかにダイナミックで、電力変換システムへの依存度が高く、さらにシステムに組み込まれたインテリジェンスへの依存も一層強まっている可能性が高いでしょう。だからこそ、いま行われている意思決定の重みは非常に大きいと言えます。

技術の選定、サプライヤーの選択、そしてサービスモデルの設計、これらはもはや単なる調達判断ではありません。長期にわたってインフラを支えるためのコミットメントであり、その影響は時間とともに積み上がっていきます。これからの投資は、「いま何を選ぶか」だけでなく、「将来にわたり何を支え続けるか」という視点で捉える必要があります。次の25年を形づくるのは、まさに今この瞬間の選択なのです。

エネルギー転換の鍵を握る「電力変換システム」

エネルギー転換は、多くの場合、測りやすい指標で語られます。たとえば、導入された再生可能エネルギーの規模(GW)、蓄電容量(GWh)、あるいはクリーンエネルギー比率です。いずれも重要な指標であり、進捗を測るうえで欠かせません。
しかし、グリッドの信頼性は、そうした数値だけでは決まりません。実際には、需給バランスをリアルタイムで維持し、じょう乱時にも周波数や電圧を許容範囲内に保ち続けること、さらに設計時には想定しきれなかった条件下でも、長期にわたり安定した性能を発揮すること、こうした“システムの中身”こそが、電力システムを支えています。

私はこれまで約30年にわたり、電力インフラの進化に関わってきました。変圧器からキャリアをスタートし、現在は電力変換の分野に携わる中で強く感じているのは、電力変換システムの役割が大きく変わったという点です。かつては系統設計における周辺的な存在でしたが、いまや運用の中核を担う存在へと進化しています。
それにもかかわらず、エネルギー転換をめぐる議論は、この変化を十分に捉えきれていません。電力変換システムは、単に太陽光発電や蓄電池と並んで設置される装置ではなく、それらがグリッドとどのように相互作用するかを決定づける「システムそのもの」です。高度なパワーエレクトロニクスと制御技術の組み合わせにより、現実の運用環境における安定性と性能が支えられています。

ギガワットやギガワット時は、エネルギー転換の「規模」や「目標」を示します。しかし、その目標を現実のものにできるかどうかは、電力変換システムにかかっています。いわば、設備全体の「頭脳」とも言える存在です。
だからこそ、どの技術を採用するのか、どのパートナーに任せるのか、そして長期にわたり誰がその性能を支えていくのか。これらの選択は、決して単なる調達判断ではありません。エネルギー転換の成否を左右する、極めて重要な意思決定といえるでしょう。

 

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Alberto Prieto
Manager, Power Conversion Solutions, Grid Automation, Hitachi Energy

Alberto Prieto is a seasoned energy executive with over 25 years' industry experience with ABB and Hitachi. As Head of Power Conversion Solutions, Alberto leads the company’s mission to deliver cutting-edge power electronics and smart control solutions for scalable grid-connected energy storage.