グリッド安定性を再考する:最新パワーエレクトロニクスの役割
Blog Post | 15.05.2026 | 7 min read
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世界の電源構成は、従来の化石燃料を用いた同期発電から、風力や太陽光発電へと大きくシフトしています。それに伴い、電力系統がこれまで自然に備えていた安定化機能は徐々に失われつつあります。
インバータベース電源が主流となる電力系統は、同期機を中心とした従来の系統とは挙動が大きく異なります。風力や太陽光は、ガスや蒸気タービンで駆動される大型回転機のように、系統の安定を支える「見えないサービス(安定化機能)」を自然に提供することができません。その結果、系統は周波数や電圧が外乱に対してより敏感になり、不安定になりやすくなります。これは特に弱い系統や遠隔地、あるいは単独系統で顕著となります。
低慣性系統において安定性を維持するには、サブミリ秒レベルでの高精度な有効電力・無効電力を制御し、系統が外乱に対しても効果的に「ライドスルーする (乗り切る)」ことを可能とすることが求められています。このような背景から、パワーエレクトロニクスを活用したソリューションが注目されています。これらは、高速で制御性の高い電力応答を実現できるため、現代の電力系統に最適な技術となっています。
日立エナジーは、HVDC交直変換システム、自励式無効電力補償装置(STATCOM)、Enhanced STATCOM、蓄電池システム(BESS)、静止型周波数変換装置(SFC)など、パワーエレクトロニクスを活用した系統ソリューションの分野で先進的な取り組みを行ってきました。Grid-enSure®は、これらの技術を統合したソリューションポートフォリオです。高度な制御技術と組み合わせることで、系統のレジリエンスと柔軟性を向上させ、より持続可能で適応力のあるエネルギーシステムへの移行を支援します。
再生可能エネルギーの導入が進む中で、これまでの火力発電に代わり、出力が変動する電源が主流になりつつあります。その結果、生じる系統の安定性における課題にどう対処するかが、今の電力システムにおける大きな課題となっています。
Grid-enSure®は、この課題に対応するために開発された統合ソリューションです。高度な制御技術と高速な半導体スイッチング、さらに用途に最適化されたエンジニアリングを組み合わせることで、低慣性系統に必要なさまざまな安定化機能を提供します。
・ グリッドフォーミング制御
弱い系統に必要な安定化機能の中で特に重要性を増しているのがグリッドフォーミング制御です。従来のグリッドフォローイング型コンバーターは、既存の電圧や周波数に同期して動作する仕組みになっています。そのため、電圧や周波数の基準がしっかりしている強い系統では問題なく機能しますが、再エネが増えて短絡容量が低下した系統では、この依存関係が安定性の弱点になることがあります。
一方でグリッドフォーミングコンバーターは、自ら電圧と周波数を生成・制御することができます。これらは制御可能な電圧源、いわば「基準をつくる側」として振る舞い、他の電源がそれに追従できる安定した環境を提供します。このような特性により、弱い系統においても系統故障や発電機の事故停止、再エネ出力の急変といった事態が起きた際でも、系統の安定性を維持することが可能になります。さらに、停電状態からの復旧(ブラックスタート)に貢献できる点も大きな特長です。
・ 疑似慣性
電力系統において「慣性」は、もともと同期発電機が自然に持っていた重要な安定化機能のひとつです。例えば、大規模な発電機がトリップしたり、需要が急に変化したりした場合でも、同期機の回転質量が持つ慣性が働き、周波数の急激な変化を自然に抑える役割を果たしていました。これにより、周波数変化率(RoCoF)が緩和され、発電機の一次制御系が反応するための時間を確保することができます。
しかし、再生可能エネルギーの普及に伴い、こうした同期発電は徐々に減少しています。その結果、系統に備わっていた“自然のバッファ”は小さくなり、低慣性系統では周波数の変化率(RoCoF)がより大きくなり、周波数の最低値 (nadir) もより低くなりやすくなります。場合によっては、保護装置がさらなる電源を遮断し、安定性が連鎖的に悪化するリスクもあります。
こうした課題に対応するのが「疑似慣性」です。パワーエレクトロニクスと高度な制御技術を用いることで、回転機の慣性をデジタルで再現し、急激な周波数変化を検知して瞬時に有効電力を注入・吸収します。これにより、外乱発生直後の周波数変動を抑え、系統の初期応答を安定化させることが可能になります。しかもその応答はサブミリ秒レベルという非常に高速なものであり、現代の電力系統における重要な安定化手段となっています。
疑似慣性が周波数変化率(RoCoF)に応じて初期的な応答を行うのに対し、FFRはあらかじめ設定された周波数の閾値やトリガーに基づいて発動される、高速な有効電力制御です。その主な目的は、周波数の低下を抑制し、負荷遮断などの緊急措置が必要となる前に系統を安定化させることにあります。
再生可能エネルギーの導入が進む系統では、周波数変動が大きくなりやすく、従来の安定化メカニズムだけでは対応が難しくなっています。こうした背景から、FFRはそれらを補完する重要な手段として近年注目されています。特に、外乱発生直後の初期段階において、FFRは迅速に応答し、系統の安定性を維持するための重要な保護機能を担います。
・ 電圧サポート
風力や太陽光などの再生可能エネルギーは、従来の同期発電機が担っていた有効電力の供給を代替できますが、無効電力の供給能力には一定の制約があります。そのため、故障時や負荷変動時、さらには送電系統にストレスがかかる状況において、電圧を適切に維持することが課題となります。
この課題に対して、有効な解決策となるのが最新のパワーエレクトロニクス機器です。これらは高速かつ高精度に無効電力を供給・吸収することが可能であり、電圧の安定化に大きく貢献します。具体的には、STATCOM、Enhanced STATCOM、自励式HVDC(VSCs)、BESS、SFCといった技術が挙げられます。これらはミリ秒単位で電圧変動に応答し、外乱発生時の系統安定化に貢献します。
さらに、これらのソリューションは高度な制御が可能であり、系統条件に応じた最適化にも柔軟に対応できます。その結果、高い再生可能エネルギー導入率を実現しながら、電圧崩壊や大規模停電のリスク低減に寄与します。
多端子直流送電(MTDC)ネットワークのような複数ノードで構成されるシステムでは、自励式HVDC(VSCs)が並列に運用されます。これは現代の電気鉄道におけるSFCでも同様です。このような環境において重要となるのが、相互運用性(インターオペラビリティ)です。すなわち、異なるベンダーの機器が、定義されたインターフェースや機能を通じて連携し、協調して動作できる能力が不可欠となります。
日立エナジーは、MTDCや電気鉄道ネットワークにおけるコンバーターの協調運用に関して、これまで豊富な実績を積み重ねてきました。特にHVDC分野では、InterOpera1プロジェクトを通じて、真のマルチベンダー相互運用を実現するための枠組み構築を主導しています。さらに、複数の業界イニシアチブにも積極的に参画しており、相互運用性の標準化と実用化の推進に貢献しています。
電力グリッドの安定性に関する課題は、単一の技術だけで解決できるものではありません。各グリッドはそれぞれ異なる特性を持ち、地域のインフラ状況や運用要件によって求められる対応も大きく変わります。例えば、再生可能エネルギーの比率が高い送電系統では、動的な電圧サポートだけで十分なケースもある一方で、単独系統や弱い系統では、追加の有効電力供給が不可欠となる場合もあります。
こうした多様なニーズに対応するのが、Grid-enSure®ポートフォリオの特長です。本ポートフォリオは、特定の技術に依存せず、各系統の状況に応じて最適な安定化手段を提供できます。パワーエレクトロニクス技術と高度な制御戦略を組み合わせることで、系統強度、電源構成、運用制約、外乱特性、連系条件、さらには将来の拡張計画といった要素を踏まえた、最適な安定化サービスの構築が可能となります。
このアプローチを支える中核技術が、MACH™制御・保護システムです。日立エナジーのパワーエレクトロニクスソリューションにおいて、運用インテリジェンスの中心的役割を担っています。
MACH™の強みは、そのモジュール型アーキテクチャにあります。これにより、多様な用途やコンバーター技術に応じて柔軟かつスケーラブルに展開することが可能です。さらに、アップグレード可能な設計により、機能の拡張や信頼性の向上を図りながら、部分的または全面的な更新を通じて、初期投資の価値を長期にわたって維持することができます。
こうした特長は、再エネ導入の進展によって系統条件が変化し、より高度な制御性が求められる現代のグリッド環境において、非常に重要です。日立エナジーの包括的なアプローチは、こうした現実を踏まえたものといえます。
重要なのは、単に設備を追加することではありません。
・どの安定化機能が不足しているのか
・それがどこで必要とされているのか
・どの程度の応答速度が求められるのか
・既存設備やレガシー技術との制約の中で、どのように最適に協調させるか
これらを的確に理解し、全体最適の視点で設計・運用していくことが、将来の電力システムの安定化に不可欠です。
電力系統を運用する立場において、リスク回避は不可欠です。そのため、これまで安定性の課題に対しては、実績のある計画手法や技術が主に採用されてきました。
しかし、エネルギー転換の進展とともにグリッドが大きく変化する中で、従来の技術だけでは将来の課題に対応しきれないという認識が広がっています。今、求められているのは、従来の前提にとらわれず、それを乗り越える新たな発想と、より革新的なソリューションです。
実際、多くの地域において、周波数変動や電圧不安定といった問題は、将来の課題ではなく、すでに系統の安定性に対する現実かつ深刻なリスクとなっています。
これらの課題に対応するためには、先進技術の導入だけでなく、系統全体の視点で安定化機能がどのように相互に作用するかを理解することが重要です。具体的には、系統の状態を的確に評価し、必要とされる応答を定義し、動的な条件下でも高い信頼性と安定供給を維持できるよう、適切な技術を選択・組み合わせ・最適化していくことが求められます。
将来のグリッドは、単にエネルギーを供給するだけでは成立しません。そこには、優れた制御性、迅速な応答能力、リアルタイムでの状態把握、そして必要なときに必要な場所で安定化機能を発揮できる柔軟性が不可欠です。
Grid-enSure®は、こうした将来像を見据えて設計されています。従来の発電機によって受動的に得られていた安定性から、パワーエレクトロニクスや高度な制御、統合されたシステム設計によって能動的に創り出す安定性へ、その移行を支えるソリューションを提供します。
日立エナジーのGrid-enSureに関するお問い合わせは、こちらよりお気軽にご連絡ください。
※日本語でのお問い合わせにも対応しています。