「不確実性の高い電力事業の業務を支援するデジタルソリューション」#5 電力市場・需給シミュレーションツール(PROMOD)
Blog Post | 11.11.2025 | 4 min read
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前回は、「#4 投資の予見性向上を支援(ノストラダムスAI)」についてご紹介しましたが、最後にご紹介するのは、電力市場・需給シミュレーションツール「PROMOD」です。このツールは、先に紹介したEPMソリューションがカバーするライフサイクルの長期的な計画段階(Planning phase)に対応しています。PROMODは事業者が不確実性に対応するためのサポートを提供するソフトウェアです。具体的には、対象市場の電力需要予測、発電設備の特性、燃料価格、系統構成などを模擬したファンダメンタルモデルを使用し、広範囲にわたる需給シミュレーションを行います。
計算モードには、日本市場をエリアごとに模擬する「ゾーナルモード」と、送電線や変電所単位でモデルを組み、送電線の潮流や混雑まで考慮できる「ノーダルモード」があります。発電設備の模擬では、例えば火力発電の場合、各ユニットの定格出力、最低出力、燃料、起動費、調整力の供出可能量といった基本的なスペックに加え、最低起動時間、最低停止時間、1日の最大起動回数、出力変化率などの動的な特性も考慮できます。送電設備の模擬でも同様に、運用容量を時間帯別に設定することが可能です。これらの入力データを基に、エリアごとの調整力必要量など、システム全体の制約を考慮し、トータルコストが最小となるように発電機の起動停止計画および経済負荷分配を決定します。計算結果の例としては、各発電設備の1時間ごとの発電量や燃料消費量、送電線の潮流、地点別の限界費用などが挙げられます。
ここからは、PROMODの出力項目を活用したさらなる利用方法について紹介します。PROMODは1970年代にアメリカで開発されたソフトウェアで、現在ではヨーロッパや日本を含むアジア各国でも使用されています。PROMODの利用方法の一つとして、電力価格の予測があります。PROMODが算出する電力価格は、各国や市場によって細かい違いはありますが、一般的に卸電力市場のスポット価格に相当します。これにより、10年や20年といった長期的なスパンでのスポット市場の価格予測を基に、再生可能エネルギーの投資計画を評価したり、需要の変動や原子力発電所の再稼働によるスポット市場価格への影響についてシミュレーションを行ったりすることが可能です。
電力価格のシミュレーションは、ユーザーがソフトウェアを活用するだけでなく、当社のコンサルタントが行った25年間のシミュレーション結果を「電力価格予測レポート(Japan Power Reference case)」として販売しています。また、ノーダルモードを使用すると、変電所単位での地点別限界価格(LMP)が算出されます。アメリカでは、このLMPが価格シグナルとして機能し、電源の立地誘導に寄与しています。
価格予測からもう一歩踏み込んだ活用方法が、発電所の投資判断があります。新規投資やリプレースを検討中の電源をPROMOD上で模擬し、長期的なシミュレーションを行うことができます。火力発電の場合、年度ごとの発電量、設備利用率、地上での売買収益を試算できます。また、再生可能エネルギーの場合は市場での売電時の加重平均価格や出力制御量を試算し、PPA(電力購入契約)の価格を検討する際の指標となります。
ノーダル制の世界では、同じエリアでも接続先の変電所によって電力価格が大きく変わることがあり、プロジェクトの立地選定に効果的です。この際、需要や燃料価格、将来の電源構成など、電力価格に影響を与えると考えられるパラメータを変化させて感度分析を行うことで、不確実性の高い将来においても信頼性の高い検討が可能です。
PROMODによるシミュレーションは、送電網の投資判断にも活用されています。送電線の増強前後で二つのシミュレーションを行い、システムコストの差を増強による便益として、建設コストと比較する費用便益分析が行われています。この際、発電コスト以外にも増強後の送電線の潮流分布や再生可能エネルギーの出力や制御率を考慮し、最適な増強規模を算出しています。
電源や送電網への投資判断は、時に20年以上の長期的な視点での検討が必要です。2025年の電源構成や電力市場の状況が、20年前からは想像もつかなかったように、20年という期間は予測が難しいものです。そこで役立つのがシナリオ分析です。
例えば、化石燃料の価格が高騰したり、再生可能エネルギーのコストが低下したりすることで、計画を上回るペースで再生可能エネルギーが普及するケースがあります。また、生成AIやデータセンターによる電力需要の急増や、安価な水素輸送方法の確立によってCO₂を排出しない火力発電が普及する可能性も考えられます。これらは現時点では可能性が低く見えるかもしれませんが、インパクトの大きい変化が起きた場合のシミュレーションを行うことで、プロジェクトのリスクを幅広く評価することができます。シナリオ分析は、政策の変更や技術革新といった大きな変化による影響を試算するもので、感度分析とは異なります。
最後に、これまでに何度か触れたノーダル制について、日本で地点別電力価格を採用するノーダル制が導入された場合の世界を考えてみましょう。
こちらは、現在公表されている需要想定や電源構成、系統情報を基に、2030年度の日本を九つのエリアに分けて模擬したものです。特に、九州エリアの基幹系統における各変電所の3日間の限界費用を色のグラデーションで示しています。この3日間はすべて天気が良いと想定されているため、昼間の限界価格が広範囲で0円を記録しています。一方で、太陽光発電量が少ない早朝や夕方には、火力発電が稼働するため、電力価格がピークを迎えることが分かります。また、ノーダル制の世界では、同じエリア内でも場所によって価格が大きく異なることが確認できます。特に、柔軟な再生可能エネルギー源である水力を含む再生可能エネルギーが多いエリアや、電力需要が少ないエリアでは、価格が安くなる傾向があります。さらに、隣接する変電所同士であっても送電線が混雑している場合、電力価格に差が生じます。そのため、洋上風力などの大規模な電源に投資をする際には、どの変電所に接続するかによって、出力抑制量や市場での売電価格が大きく変わる可能性があります。
これまで「不確実性の高い電力事業を支援するデジタルソリューション」と題して、「#1 電力市場の変化」、「#2 エナジーポートフォリオマネジメント(EPM)」、「#3 エネルギートレーディング&リスクマネジメント(ETRM)」、「#4 投資の予見性向上を支援(ノストラダムスAI)」、「#5 電力市場・需給シミュレーションツール(PROMOD)」の5回に分けて紹介してきました。本シリーズが、電力事業における不確実性への対応や戦略策定の一助となれば幸いです。
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